第3回 いつでもどこでも〈バクチ天国〉。世界全部が鉄火場なのか?
力士にとって、土俵以外はほとんどバクチをするところと言っても過言ではない。もっとも、土俵上では八百長が行われているのだから、力士にとっては世界全部が鉄火場だ。
本場所中に国技館に行けば、昔は1館の公衆電話から電話している力士をよく見かけたものだ。彼らは電話で相撲賭博や高校野球、プロ野球賭博にはったり、あるいは競馬のノミ屋に連絡を入れていた。
しかし、最近はケータイの発達で、このなつかしい光景は見られなくなり、なんと、ケータイがアダとなって八百長が発覚したのだから、皮肉と言えば皮肉だろう。昔のように、公衆電話でかけていれば、相撲賭博も発覚はしなかったかもしれない。
ところで、力士は、バクチの種目を選ばない。ほとんどなんでもやる。
もっともポピュラーなのはやはり麻雀で、歴代の巡業部長、先代の二子山(花田勝治)をはじめ、春日ノ親方(元栃ノ海)、二子山親方(元貴ノ花)なども、みな麻雀が大好きだった。この伝統は受け継がれ、土俵ではガチンコで鳴らしていた安芸乃島(現・高田川親方)、寺尾、貴闘力などもよく卓を囲んでいた。
ただ、麻雀は勝負に時間がかかるので、力士たちに好かれるのが、〈バッタまき〉である。これはスジ者が〈あとさき〉と呼ぶ花札賭博で、張り方は配られた2組の札のどちらかに張る。2組の札は常に1枚が開けられているので、それを見て賭けるわけだが、勝ち負けは単純だ。合計して9に近い方が勝ちである。
力士たちはこれに熱中する。張りは両サイドが同額にならなければならないので、張りが足りないと声がかかる。そしてたとえば、一方に50万円、反対側に50万円というふうになると札が開けられ、勝った方が賭金を持っていく。
これは本当に単純で、畳一畳ほどあればどこでもできるから、巡業中の支度部屋でも行われている。行司から呼び出し、親方までが集まってやっていることもある。
この〈バッタまき〉と同じようにすぐできるのが、サイコロを3つ使う〈チンチロリン〉だが、最近はほとんどしなくなった。
こうした力士間のバクチは、ほとんどどこでも行われている。とくに地方巡業のときなどは、列車の中、ケイコ場までバクチ漬けである。また、動く金もバカにならない。
ある地方巡業で二子山の力士は一晩で一千万円以上も負け、「これで注射に転向だろう」とウワサになったが、どこからか都合をつけてきたという話もある。
地方場所の場合、タニマチと場を囲むこともある。また、タニマチがカジノや花札賭博の場を立ててくれることもある。こういうときは、力士はおいしくてたまらない。たとえば、タニマチとの麻雀なら、社長連中は祝儀代わりにバンバン負けてくれるからだ。そうすると、力士たちは自分が強いと勘違いし、暴力団が背後にいる相撲賭博にまで引き込まれることになる。
土俵上が注射に染まるのは、こういうところにも原因がある。つまり、ある現役力士の言葉を借りれば、「バクチやる金欲しさ。女とやる金欲しさ。要するに遊ぶ金がしいんですよ」ということになる。