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第9回 ケーススタディ:対戦相手同士の背景から勝敗を読むには?

 ブックメーカーの攻略法にはいろいろなパターンがあるが、たとえば、優勝力士を当てるより容易なのが、選ばれた2人の力士の星が一場所の15日間を通して、どちらが上回るかを当てるマッチベットである。組み合わせがガチンコ同士ならいざ知らず、注射という前提に立てば、星の貸し借りを見て大方の成績は予想できるからだ。


 前回のケーススタディ(第8回 ケーススタディ:千代大海の初優勝とオッズの変化)で、千代大海の優勝場所を述べた都合で、同じく1991年1月場所のマッチベットから、たとえば琴錦vs栃東戦などを例にとってみたい。

 このマッチベットの結果は、火を見るより明らかだ。栃東が琴錦を上回るのは、鉄板である。

 前場所、平幕で優勝した琴錦の1月場所は、いわゆる〈星の返済〉場所。つまり、借金を返すわけだから、ほぼまちがいなく負け越す。〔白星より金が好き〕という異名を持つ琴錦は、いくら小結という三役になったとしても、上は狙わない。彼にとって大関獲りなどという野望は、労力の浪費以外のなにもでもない。このようなことは、関係者に話を聞けばわかる。

 しかし、そういうルートがなくとも、データを研究するだけでもわかる。琴錦の場合、三役に上がっても続かないのである。また、以前は大きく勝ち越した翌場所でも勝ち越すことがあったが、直近を見ると勝ち越しと負け越しが繰り返されていた。

 琴錦のこうしたデータを知っていれば、このマッチで栃東を選択するのは、おそらく誰でもできた。

 さらに、栃東はガチンコ力士の典型であり、まだ22歳の若さ、しかも玉井親方の息子となれば、力以外の負けはありえなかった。しかも、場所前のケイコ状態は万全で、前年の夏場所以来三場所連続で勝ち越していた。当然、この組み合わせなら、栃東を選ぶ。案の定、琴錦は6勝9敗と負け越し。栃東は、9勝6敗と勝ち越した。

 また、旭豊vs濱ノ嶋のマッチというのもあった。これは、当然、濱ノ嶋を選択する。というのは、1月場所前に旭豊の引退が決まっていたからである。旭豊は、立浪親方の長女・幸世さんと結婚しており、立浪部屋のムコ養子として部屋を継承することになっていた。とすれば、なにもシャニムに勝つ必要はない。つまり、彼にとって、引退場所で勝ち越す意味はまったくなかった。

 とすれば、旭豊の1月場所は、〈星のバーゲンセール〉。引退後の人生と現在の状況をハカリにかけ、白星のプレゼンターになるほうが、人間としてよほど利口だろう。

 事実、旭豊は4勝9敗(13日目引退)と大きく負け越し、〈注射の常連〉濱ノ嶋は前場所の3勝12敗を受けて、9勝6敗と勝ち越した。

 ちなみに、「戦後最大の中盆」言われた板井は、引退場所は15戦全敗と、星のバーゲンセールをやって土俵を去っている。

 このように、相撲の勝敗、成績は、実力とか調子の良し悪しというもので決まるのではないのだ。

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