第1回 英国ブックメーカーと相撲ベッティング
わたしたちが、注射相撲の研究を始めたのは、いまから20年ほど前のことである。当時、英国のブックメーカーのSSP社、マニング社などが日本進出を果たし、相撲ベッティングを始めたからである。この相撲ベッティングは、当時、一部でおおいに流行り、わたしたち以外にも、たくさんの日本人が会員になって参加した。なかには、有名作家もいた。
それで、このベッティングに勝つためという邪心から、わたしたちは相撲記者や相撲関係者(タニマチ、相撲協会の人間など)に話を聞くようになり、また、ツテを頼って一部の力士や元力士からも話を聞くようになった。さらに、文献にも当たった。
当時は、競馬や他の公営ギャンブル(競輪、競艇、オートレース)と同じように、相撲に自分の持っているお金をベット(賭け)したいと思うなら、英国のブックメーカーの会員になるのが、唯一合法的な方法だった。
ただし、日本から英国のブックメーカーに賭けることは、現代のようにインターネットの時代ではなかったから、英国に銀行口座を開き、投票は電話やファックスで行うというものだった。ところが、この方法をめぐって、合法か違法かという問題が起き、SSP社を除いていったんブックメーカーは日本を撤退した。
しかし、2007年ごろから、英国のブックメーカーは日本に再上陸を果たした。
ブックメーカーというのは、ギャンブル(英国ではベッティングなどとも言う)の「胴元」。サッカーや野球といったスポーツはもちろん、選挙の勝敗や政党支持率、映画の興行ランキング、テレビの視聴率、明日の天気まで、数字になるものなら、すべてベッティング(賭け)の対象になる。したがって、日本のファンに対して、プロ野球、Jリーグ、相撲など日本独特のメニューを入れてくるのは当然である。
では、なぜ、英国ブックメーカーは、日本再進出をしたのか?
それは、2006年に、アメリカでオンラインギャンブルの規制を強化する法案が上院で可決され、その結果、上得意のアメリカ人顧客がいなくなってしまったからだ。そこで彼らはアジアに目を付け、日本や韓国、中国などギャンブル好きが多い東アジア諸国に進出したのだ。もうひとつの理由は、電子マネーが普及したことだ。
現在、英国のブックメーカーで日本語サービスも行っているのは、マン島に本拠地を置くブックメーカーBFIM社が運営する『Betluck(ベットラック)』が、もっとも有名だ。Neteller(ネッテラ)という電子マネーを使うことで、日本円での引き出しも可能になっている。