第2回 英国ブックメーカーで相撲に賭けることは合法なのか?
1992年、英国ブックメーカーが日本進出したとき、「マニング社事件』というのが起こった。このとき、ロンドンに本拠を置くブックメーカー・マニング社は、日本企業と代理店契約を結んで国内で会員募集を開始。これが、大きな話題になって、日本の警察庁が捜査を開始し、結局、マニング社は日本を撤退することになった。
しかし、マニング社のやり方が違法かといえば、そうとは言えない部分もあった。マニング社は、会員制を取り、入会金1万円と年会費1万5000円を払って、指定の賭け金をナショナル・ウェストミンスター銀行東京支店の口座に振り込むという手続きにした。すると、この会費や賭け金はいったんイギリスに送金され、イギリス政府の賭け税10%を払った後に配当が計算され、日本に逆送金されるという仕組みになっていた。
したがって、マニング社と日本の代理店は、「日本総代理店は募集の代行と情報提供を行うだけで金銭の取り扱いにはいっさい関わっていないので、従来のやり方と実質的には変わらず、(日本国内で)違法性を問われることはないはず」(日本経済新聞1992年1月11日朝刊)と説明していた。
しかし、日本の警察庁は「理論的には違法行為に当たる」と判断。「とばく罪が成立する疑いが強い」と、強く警告した。この警告にひるんだのが、ナショナル・ウェストミンスター銀行。結局、日本国内でマニング社との取引に応じないことを表明し、マニング社は撤退することになったのである。しかし、マニング社より先に日本人会員を募集していたSSP社は、こうした代理店方式をとらず、直接、会員と取引し、決済も英国で行うようになっていたため、撤退はしなかった。
それから20年ほど、いまやインターネットが世界を結び、電子マネー決済も進展し、日本の法律では、海外でのベッティング行為を取り締まりようがない。ただし、完全に合法かといえば、そうとも言い切れない部分もある。現在のところは、以下のような解釈で、合法と考えられているだけだ。
賭博というのは、胴元と賭け手の両方が存在して賭博という犯罪になる。とすると、英国ブックメーカーは賭博には当たらないと、解釈する専門家のほうが多い。なぜなら胴元は日本にはいないからである。さらに、「日本の賭博罪は、必要的共犯または対向犯で成り立っていますから、賭ける側(プレイヤー)と賭けさせる側(オンラインカジノ経営側)を同時に立件しなければいけない」ということなので、日本の警察が国内と国外を同時に捜査することは不可能だ。
英国のブックメーカーも、「データもサーバーも、さらには現金の決済システムもすべてイギリスにあります。だから日本人の会員は、あくまでもイギリスのサイトにアクセスし、そこで賭け行為を行っているということになります。これを、リアルな行為で考えてみると、たとえば、海外旅行中にラスベガスで賭けをしているのと同じで、日本国内の法律には問われないでしょう」と言う。