緊急座談会「どうなる？ガチンコ5月場所」〈3〉
白鵬の優勝はあるのか？ 把瑠都の逆襲、まさかの高見盛の優勝まで
【座談会出席者】
Ａ＝元力士／Ｂ＝ベテラン相撲記者／Ｃ＝タニマチ関係者／司会＝田端良彦（大相撲研究室・代表）
ガチンコ場所は過去にもあった!? 先例に学ぶ
田端 ところで、ガチンコ場所といえば、過去に1度だけ例があります。1972年1月場所（初場所）です。このときは、理事長・武蔵川喜偉（元前頭筆頭・出羽ノ花）が、「相撲競技監察委員会」を設置し、無気力相撲をなくす方針を打ち出した。この委員会が、国技館の2階席に陣取り、土俵を監察したので、注射ができなくなった。その結果、なにが起こったかと言いますと、当時、もっとも人気があった貴ノ花が負け越してしまったり、横綱・北の富士が負け込んだうえに途中休場してしまいまいました。
今回も同じようなことが起こるんでしょうか？
Ｂ 起こるでしょうね。あの場所は、今回と同じように八百長が問題になっていました。背景として、前年に大横綱だった大鵬が引退。その弟弟子だった横綱・玉の海が10月に27歳の若さで急死してしまうということがありました。そんななか、一人横綱になった北の富士に、 暴力団からのぼりと懸賞金を受け取ったという事実が発覚。さらに大関の大麒麟も収監中の暴力団組員に面会するということが発覚し、角界の「黒い交際」問題 も、世間から批判されて、クローズアップされるようになった。
Ａ あのときは、名古屋場所でカド番だった琴櫻が大麒麟に勝った一番が八百長だと騒がれたことが大きかった。ただ、協会は「無気力相撲」と言い逃れしましたが。それで、理事長が監査員会をつくったのです。
Ｂ 取り組も変えましたね。場所前半は番付上位陣を対戦させる。そして、後半は成績のよい者同士をぶつける。初日から上位陣同士をぶつければ、無気力相撲はなくなるだろうと思ったんですね。
田端 しかし、ふたを開けてみると、初日から上位陣は星を落とし続けました。さきほど出たように、星のつぶし合い、総崩れとなってしまいました。北の富士は13日目に6敗目を記録すると、横綱の権威が守れず休場。横綱が7勝7敗1休という惨憺たる成績でしたよ。
Ｃ いやあ、言われてみれば、そのとおりですな。で、結局、誰が優勝したんでしたっけ？
Ｂ 栃東です。いまの玉ノ井親方（栃東）の父親です。
Ｃ あのとき、栃東は三役ではなかったね。
Ｂ 前頭5枚目です。
Ａ あの場所は、大関陣も大不振。ガチンコだったため、前の山は5日目から休場、琴櫻、長谷川も星を落とし続け、たしか、千秋楽で何人か並んだ。10勝5敗が何人もいた。
田端 ここに記録がありますが、当時小結だった輪島、前頭3枚目の福の花、前頭8枚目の吉王山、前頭10枚目の若二瀬が千秋楽で10勝5敗で並んでしまいました。初代の貴ノ花、高見山も6勝9敗で負け越しです。
このとき、千秋楽まで4敗できていたのが栃東で、千秋楽で 大関・清国と対戦し、これに勝って初優勝しました。しかし、ここで負けていたら、10勝5敗力士が8人にもなり、8人で優勝決定戦という前代未聞の出来事 になるところでした。
Ｂ これでわかるのが、15日間ガチンコでやれば、横綱、大関中心の土俵の秩序は崩れ、なにが起こるかわからないということですね。もうひとつは、ケガ人が続出するということ。今回も、こうなる可能性が高いでしょう。
Ｃ あれで、協会は懲りた。だから、それから、ガチンコ場所はないし、無気力相撲があっても見逃してきた。それに、こんなにケガ人、休場が出たらたまらんと、翌場所からは「公傷制度」が導入されましたね。この公傷制度は、本場所中にケガをして翌場所も休場してしまったら、番付を落とさないことにした。でも、なんで廃止したのかね？
Ａ やはり、ここまで甘いと、注射ばかりになってしまうからでしょうね。2004年に廃止されました。しかし、これを復活させないと、ガチンコでやる限り、土俵は大荒れになりますよ。
《1972年1月場所（初場所）の記録》
- 幕内最高優勝：栃東（前頭4枚目）〔相撲が15日制になって11勝4敗で優勝が決まったのは初〕
- 三賞：殊勲賞は東小結の輪島（東小結）、敢闘賞は福の花（西前頭3枚目）、技能賞は栃東（前頭5枚目）、優勝と同時受賞。
- 十両優勝：増位山（西8枚目）12勝3敗。
- 幕下優勝＝西11枚目・修羅王(最高位＝十両4枚目)(7戦全勝・2回目)。
- 三段目優勝＝東15枚目・弓場(7戦全勝)＝2人による決定戦。
- 序二段優勝＝東32枚目・大川(6勝1敗)＝6人による決定戦。
- 序ノ口優勝＝東4枚目・大村(7戦全勝)。
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