第3回 ベットする(賭ける)ことで相撲のリアルな姿が見えてくる
わたしたちが、注射相撲の研究を始めたのは、いまから20年ほど前のことである。当時、英国のブックメーカーが日本進出を果たし、相撲ベッティングを始めたからである。この相撲ベッティングは、当時、一部でおおいに流行り、わたしたち以外にも、たくさんの日本人が会員になって参加した。なかには、有名作家もいた。
それで、このベッティングに勝つためという邪心から、わたしたちは相撲記者や相撲関係者(タニマチ、相撲協会の人間など)に話を聞くようになり、また、ツテを頼って一部の力士や元力士からも話を聞くようになった。さらに、文献にも当たった。
当時は(いまでもそうだが)、競馬や他の公営ギャンブル(競輪、競艇、オートレース)と同じように、相撲に自分の持っているお金をベット(賭け)したいと思うなら、英国のブックメーカーの会員になるのが、唯一合法的な方法である。
わたしたちは会員になると、さっそく相撲研究を始め、10年ほど前、その記録をまとめて本にすることを計画した。しかし、諸般の理由から出版を断念した。
いったん本をまとめた後に板井の告白があったが、そのときは、メンバーも相撲ベッティングへの情熱を失っていた。しかし、今回のことで、メンバーたちの気持ちは再びよみがえった。相撲が歴史的な危機にあるいま、ある程度の精度で、記録を残しておいたほうがいいと判断したからである。
それではなぜ、ベッティングという見地から見ると、相撲のリアルな姿が見えてくるのだろうか?
それは、ベットする(賭ける)ためには、データが必要だからである。競馬でもサッカーでも、ベッティング(賭け)をするなら、その対象となるスポーツやイベントに対しての正確な知識とデータは欠かせない。もし、この二つを欠いて賭けにのぞむなら、勝敗はただの運に左右されるだけである。
競馬や競輪にデータ満載の専門誌があり、そのシステムを研究した専門書籍があるのは、このためである。しかし、相撲にはこの二つともない。
「そんなことはない。スポーツ紙には幕内力士の星取り表からの過去の対戦成績など、ちゃんと載っているではないか」
「相撲の専門誌(『月刊大相撲』など)もあれば、元力士が書いた本なども出ているではないか」
という声もある。
しかし、それらには相撲をベッティングの対象と見たときの正確なデータや知識が載っているだろうか? 答えはNOである。相撲界を知るための正確な情報など、当時もいまも大手メディアのどこを探しても見当たらない。
ただひとつ、大いに参考になるという点で週刊誌があった。『週刊ポスト』は長く、相撲の八百長告発キャンペーン記事をやっていて、これは本当に参考になった。その後、『週刊現代』もこのキャンペーンに参戦した。しかし、それは2007年のことで、当時は、ほぼ『週刊ポスト』の独走状態だった。
とはいえ、週刊誌の報道は八百長告発に焦点が絞られ、相撲のデータ分析という点では不十分だった。そこで、わたしたちは、注射とガチンコがどのように行われるか、また八百長にいたる人間関係はどうなっているのかというような観点から、相撲を分析することにしたのだった。