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ガチンコ理事長・放駒親方の苦悩を理解しないマスコミ
「責任を取って放駒理事長は辞めるべきだ」という識者がいるかと思えば、その尻馬に乗って、同じように相撲協会を糾弾する記者やレポーターがいる。彼らは、いったいなにをしたいのだろうか？
放駒理事長（元大関・魁傑）というのは、正真正銘の「ガチンコ力士」である。その足跡を振り返れば、とてもそんなことは言えないはずだ。
駒理事長は、山口県岩国市の出身で、日大相撲部から中退して1966年9月場所で初土俵を踏んだ。1971年9月場所に新入幕すると、1年足らずで、小結に昇進して11勝を挙げ、輪島・貴ノ花・三重ノ海らとともに次代を担う大関候補として「貴輪三魁」と称された名力士である。
しかし、三役に定着したものの、魁傑はガチンコ力士らしく、何度も二桁の成績を挙げながら、大関に昇進できなかった。
そんな魁傑に、チャンスが巡ってきたのは、1974年11月場所。小結で12勝3敗、決定戦で弱いと評判の横綱・北の湖との優勝決定戦で一方的に突き出して初優勝を遂げた。
そして、翌年の1月場所でも11勝4敗の好成績を収め、3場所通算で30勝15敗＋優勝1回の好成績で、ついに大関昇進を果たしたのである。
魁傑が名大関と称さられるのは、その後、負け越して大関から陥落し、平幕6枚目まで下がったのに、再び大関に返り咲いたことだ。1976年の9月場所、魁傑は14勝1敗を挙げて2度目の優勝（元大関の平幕優勝は史上初）、11月場所には関脇に復帰して114勝４敗、1977年1月場所も11勝4敗として、再び大関になったのである。
ただ、悲しいかな、ガチンコだと負傷が多く、その後は、念願の横綱昇進も果たせず、再び大関を陥落して引退した。
しかし、相撲ファンなら誰もが「ガチンコでなければ、絶対に横綱になっていた」ということを十分に知っている。魁傑は「休場は負けだ」との名言を残し（「試合放棄だ」と言ったこともある）た。いくら不調で黒星が続いても、けっして土俵を休まなかった。
そんな力士がいま放駒親方として、理事長になっている。そして、皮肉にも昔、散々注射力士に悩まされたのにもかかわらず、2月7日の会見ではこう言っているのである。
-----過去に八百長がなかったことを証明しないのか。
「裁判の結果なども出ている。なかったと理解している」
-----これまでも八百長があったという声が広がっているが。
「風評被害と言えばそう。申しわけないが、迷惑な話だ」
八百長がなかったら、実力では横綱になっていた男が、過去になかったと言うのは、仲間をかばっているとしか思えない。実際、これまでの理事、理事長は多くが注射力士上がりである。
このような状況を正確に報道すれば、そちらのほうがどんなにすごいことになるか、マスコミの人間ならわかっているはずである。こんな逆転のドラマ、苦悩のドラマはめったにない。理事長を糾弾する記者たちの気がしれない。
「放駒理事長がガチンコになったのは、回りがみな注射力士だったから。正義感が強い青年には耐えられなかったんでしょう。それで、人一倍苦労したが、現役中ガチンコを守りとおした。その姿は、わたしどもにはあっぱれと写ります。だから、弟子の大乃国（現・芝田山親方）もガチンコを通し、苦労した挙げくに師匠の念願だった横綱になった」と、あるタニマチは言う。
大乃国といえば、横綱でも「張出横綱」が定位置で、横綱での優勝経験は1度しかない。これは、〔注射コンビ〕と言われた千代の富士・北勝海の九重部屋勢に星回しをされたからである。
だから、1988年11月場所の千秋楽、昭和時代最後となった結びの大一番で、53連勝中だった千代の富士を、怒涛の寄り倒しで土をつけ54連勝目を阻止したのは、当然の結果だったろう。
（2011年2月11日記）
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