第8回 ケーススタディ:千代大海の初優勝とオッズの変化
ここでは、ケーススタディとして、千代大海が初優勝をした1999年の1月場所を見てみたい。
このとき、ブックメーカーがつけた優勝力士当ての単勝のオッズは次のようになっていた。
- 横綱・貴乃花 1.5
- 横綱・若乃花 5.0
- 横綱・曙 —(全休)
- 大関・武蔵丸 6.5
- 大関・貴ノ浪 8.0
- 関脇・武双山 12.0
- 関脇・琴ノ若 20.0
- 関脇・千代大海 20.0
この前の場所は平幕の琴錦が優勝し、次点は12勝3敗の貴乃花と土佐ノ海。若乃花は9勝6敗に終わっていたから、このオッズはそれを反映していたと言えるだろう。しかし、なんで千代大海が20.0倍もつくのだろうか?
千代大海はこのとき関脇で、前々場所が9勝6敗、前場所が10勝5敗、計19勝11敗できていた。つまり、大関取りがかっていたのだ。
ご承知のように、もし、この場所で12〜13勝を挙げれば三場所合計の勝ち星が31勝ちを上回り、千代大海は大関に昇進できるのである。しかも、これが千代大海にとっては大関取りの初のチャンスであった。
ここまで、お膳立てができているのだから、彼が九重部屋の力士といったことを考えれば、千代大海の優勝は、事前にシナリオを書くことは可能だった。
ここで、オッズについて説明すると、これは場所前のもで、場所が進んでいくにつれて変化する。というのは、そのときそのときにブックメーカーは状況によってオッズを変えるからだ。
この場所は、若乃花が好調で、場所が進むにしたがい、オッズはどんどん下がっていった。1番人気の貴乃花は大不振(結局は8勝7敗)で、ライバルの大関・武蔵丸と貴ノ浪も絶不調で、その不調ぶりは中日を待たずして判明したので、この経過は当然といえば当然だった。場所前につけた若乃花のオッズ5.0倍は、その後3.0→2.5→2.0と下降し、13日目には1.8倍まで下がった。
いっぽう千代大海のオッズも場所前の20.0倍からどんどん下がり、最終オッズ(14日目)は3.5倍まで下がった。
こうして、千秋楽は若乃花と千代大海の勝負となり、千代大海が勝った。この勝負は若乃花がガチンコだから、完全なガチンコ勝負で、千代大海にとっては大一番だった。これを制したのだから、このときの千代大海は力が充実していたと言っていい。
このように、最終的に勝負がガチンコの場合は、事前に優勝力士を予想するのは難しいが、シナリオを想定すれば、ある程度は絞り込める。ちなみに初優勝して大関になった千代大海は、翌場所は3勝8敗4休と、いきなりカド番を迎え、その翌場所も全休した。